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黒い実をつけた木




猟師が斜面で獲物を待っていた。
木の枝を組んで雨露をしのげるようにした、小屋のようなものの中、
目をつけた獣道をじっと伺う。
時代は昔、とだけ教えられた。

ある時、その小屋で腕に痛みを感じた猟師が見ると、怪我をしていた。
小屋の作りは荒っぽい。
枝にでも引っ掛けたのだろうが、害のある枝による怪我だとすれば、
厄介なことになる。
傷口から血が丸く盛り上がり、球形に丸まった。
大きさは山椒の実ほど。
血を吸い、手製の傷薬を塗りつけ、当座の手当てを済ませた。
血がまた盛り上がり、球形に丸まり、それで血は止まった。
激しい痛みもなく、まずは大丈夫だろうと猟師は安心した。

翌朝、血の玉は二つに増えていた。
翌日には一旦、村へ帰らなければならない。
村へ帰る日、血の玉は数を増していた。
猟や食物採集で暮らす村だ。
猟師は友人に血の玉を見せ、猟師を引退した老人に見せ、寺の坊さんに見せ、
要するに、村中に腕の血の玉を見せ歩いたが、誰にも正体が分からなかった。
日が過ぎ、血の玉はその数を増し続けた。

体調が悪いわけではない。
むしろ、山の小屋に行くことを願うくらい猟が恋しかった。
勤労意欲といって良い。
猟師にとって、決して悪いことではない。
ただ、血の玉が取れないのが不思議だった。
実際問題としては、赤黒い血の玉は血で満たされているだろうし、
それを無理に取ることで、余計な出血を招くことは避けたかった。

猟師が次に山へ行くまでに血の玉は大きくなり、クロスグリの
実のようなのが、小さなブドウの房のようになってぶら下がっていた。
背中や足にも、血の玉が盛り上がるようになっていた。
どうやらただごとではないと思われたが、どうにもならない。
相変わらず猟師の体調はよく、元気に山へ入った。
医師に見せるには、獲物を売り、現金を手にしなければならない。
それも山へ行った理由のひとつだ。
村人に、彼を助けるだけの収入があるはずもない。

仲間の猟師が、彼の小屋を覗いた時は元気だった。
優しい目をしていたと後になって話した。
そして、血の玉はその数を増していた。

二日ばかりして、別の若い猟師が小屋を訪ねると、そこに小屋はなかった。
見覚えのない、黒い実をつけた木があった。
鉄砲は斜面に置かれていた。
枝に触れると何かが弾け、彼の左腕から血が盛り上がり、球状になった。

若い猟師が村へ飛んで帰り、見てきたことと身に起こったことを話し、
血の玉を見せると、村は大騒ぎになった。

結局、若い猟師は左腕を切り落とす破目になった。
数人に押さえ付けられ、大きなナタで叩き切られた。
その後、あの木には誰も近寄らなかった。
そして今、その一帯はダムの底だ。

話してくれた老人には、左腕がない。


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2018-10-14 20:18 : 怖い話 : コメント : 0 :
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