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彼方から




K氏が、山奥の集落へと向かった時の事。
集落の片隅にある原っぱで、数人の老人たちが集まって何やら話し込んでいた。
何の集まりですかと聞くと、ひとりのお婆さんが、移動販売のトラックを待っていると答えてくれた。
週に二度、トラックに様々な食料品や日用雑貨を積んで、この集落まで売りに来るそうだ。

小さな店すら無い山の集落である。生活必需品ひとつ買うのにも、麓の街まで下りねばならず、足が無い年寄りたちにとって、移動販売のトラックは恵みの雨のような存在であった。
田舎住まいのK氏もこれは珍しいと、原っぱでトラックが来るのを待っていた。

しばらくすると、篭った音の珍妙なメロディーが流れてきて、トラックが原っぱに止まった。
トラックの荷台がぱかっと開き、色取り取りの商品が見えたかと思うと、老人たちが、よたよたと杖を突きながら、わっとトラックに群がる。

買い物に興じながら老人たちは、年金がどうとか、嫁がああだとか、店の主人に話しかけていた。
主人は無口であったが、年寄りの他愛も無い話にも笑顔で耳を傾け、相槌を打っていた。
K氏も、その和やかな輪の中に加わり、買い物を楽しむ事にした。

商品棚を目にすると、街のコンビニでは目にしないような珍しい物が並んでいた。
銘柄不詳のジュースやタバコ、金属製のたらい、硫黄の臭いがする入浴剤、芯の無い便所紙…
そこには、懐かしい昭和の時代が溢れていた。
K氏は未だにこんな古い物が流通しているのか、と変な感心をしつつ、ビー球の入った瓶ラムネを手に取り、千円札を差し出し、お釣りを貰った。

受け取った釣り銭の中にお札があり、妙だと思いよく確かめると「岩倉具視」がこっちを見ていた。
しばらく、その気難しい顔とにらめっこをしていたK氏であったが、ハッと我に返り頭を上げると、トラックはまた珍妙なメロディーを流しながら、山の向こうへ去っていくところだった。

白昼夢のような光景に困惑するK氏だったが、老人たちの賑わう姿を見ていたら、どうでも良くなった。
あのトラックがどこから来たのか知らないが、必要とされる所なら何処へでも移動し続けるのだろう。
K氏はラムネ瓶のビー球に苦戦しつつ、懐かしい清涼感を存分に味わった。


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2018-11-15 20:39 : 怖い話 : コメント : 0 :
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